生き方を科学する

物理の専門家が科学と哲学を融合します

第38回 自然界は平等を支持しない?(人類階層:思想)

コト「結局のところ、平等はあるの?」
博士「物質の世界では陽子や電子などの物質を構成する粒子(フェルミ粒子)は平等じゃないんだ

 

コト「うん」
博士「1つの電子軌道には1つの電子だけが入ることができる。違う軌道にいる電子はそれぞれ異なった個性を発揮するんだ」

 

コト「仮に平等だったとしたらどうなるの?」
博士「一番エネルギーが低い軌道(1s軌道)に全部の電子が集中する」

 

コト「そうすると困るの?」
博士「水素原子やヘリウム原子に化学的性質が近い原子だけが存在することになるだろう」

 

コト「難しいよ」
博士「元素の周期表が水素とヘリウムだけになる。炭素や酸素はヘリウムに近い化学的性質をもつようになる。水分子もできない。細胞もできない。もちろん生物も存在しない

 

コト「そんな」
博士「電子は平等じゃないんだ。原子の中で電子が個性を発揮しているからこそ、豊かな自然が誕生できたんだよ

 

コト「うん」
博士「生物に目を向けると、進化した生物は有性生殖により雄のDNAと雌のDNAから子供を産む」

 

コト「そうだね」
博士「雄のDNAと雌のDNAからそれまでにない新しい組み合わせのDNAをつくろうとしているんだよ

 

コト「うん」
博士「それは違いを生み出そうとすることなんだよ。そして親と子のDNAの違いが進化を加速するんだ」

 

コト「うん」
博士「こうした違いは平等から遠ざかることなんだよ。自然界は平等を目指していない

 

コト「そうなんだね」
博士「物質の世界では原子が異なる性質を持つから豊かな自然が生まれた。生物の世界ではDNAが新しい組み合わせを探求するから生物は進化した

 

コト「うん」
博士「違うからこそ意味があるんだ

 

コト「中には平等を理想に掲げている人達もいるように思うんだけど」
博士「生物は生まれたときに生きる機会を与えられる。だけど権利なんか与えられていないんだよ

 

コト「うん」
博士「DNAが違うのに平等なんて成り立つはずがないんだ。無理に平等にしようとするとどこかにしわ寄せがいく」

 

コト「そうなんだね」
博士「フランス人権宣言では権利において平等だと言っているんだよ」

 

コト「うん」
博士「だから機会を平等に与えればいいんだよ。ただ、機会を平等に与えたら結果は平等にならないことを理解しないといけないんだ