生き方を科学する

物理の専門家が科学と哲学を融合します

どう生きればいいのかを科学的に考察する


   この世界はこうなっている
     ⇒ この世界に生きる私達はこう生きるといい
   という一つの解答が得られる


1.はじめに

  私達は重力によって否応なく地球に引き寄せられています。
  死んだ生物を生き返らせることはできません。
  私達はこれらの自然法則に抗うことはできないのです。
  自然法則は変えようがない運命のようなものです。
  しかし、自然法則が何らかの方向性をもっているとしたらどうでしょう。
  それは『私達はどう生きるか』を照らす道しるべになるのではないでしょうか。
  自然法則の方向性を見つけるために、物質階層、生命階層、人類階層に共通する事項に着目します。
  そして、科学から『生きることの意味』を導きましょう。


2.必ず死ぬ運命にある生命体

 2-1.生物階層

  私達は『命は尊い無条件に教えられてきました。
  生きとし生けるものはいつか死を迎えます。
  尊いはずの命は失われる運命にあるのです。
  なぜ、尊いはずの生命は失われてしまうのでしょうか?

    命(必ず失われる) = 尊い


3.存在

 3-1.物質階層

  物理的に存在する粒子は相互作用します。

  自然界には4つの力(相互作用)が働くと考えられています。
  強い相互作用弱い相互作用、電磁相互作用、重力の4つの相互作用です。
  ここで粒子とは、陽子、中性子、電子などの物質を構成する単位です。

 

  仮に相互作用しない粒子が存在したと仮定します。
  相互作用しないということは、何からも影響を受けないこと、何にも影響を与えないことを意味します。
  観測とは、何らかの相互作用の痕跡を探索することです。
  相互作用しない粒子は検出器に何の変化も起こしません。
  相互作用しない粒子を実験的に観測することは原理的に不可能なのです。
  つまり、『相互作用しない』ということは『存在しない』ことを意味します。

 

  物質の世界では『存在する』ということは『相互作用する』(相互作用してしまう)ということなのです。

    強い相互作用  陽子、中性子の間に働く力
    弱い相互作用  陽子、中性子の種類を変える力
    電磁相互作用  電気、磁気による力
    重力      質量のある物体の間に働く力

 

 3-2.生命階層

   生物は外界からエネルギーを取り入れて生命を維持します。

  生物は生死によらず物質として存在します。
  ここでは生物が生きている場合を考えましょう。
  植物は水を取り入れながら光合成と呼吸により生命を維持します。
  動物は水と食糧を摂取しながら呼吸により生命を維持します。


  光合成は太陽光のエネルギーを化学エネルギーに変えて有機化合物をつくることです。
  呼吸は血液によって体内に循環された糖を分解してエネルギーを得ることです。
  生物は外界からエネルギーを取り入れないと生命を維持することができません。
  生物が生存するということは、外界に影響を与える(与えられる)ということです。

 

 3-3.人類階層

   人間は社会でコミュニケーションを取ることで生きています。

 

  人間は水や酸素がある地球環境の中で生きています。
  電力が発電所から家庭に送電されています。
  水道水が浄水場から家庭に供給されています。
  人間は社会の中で食糧などの物を売買によって得ています。
  そうしたエネルギー、物のやりとりが『コミュニケーション』です。
  私達は自然環境、社会環境から恩恵を受けて生きているのです。

 

 3-4.各層に共通する事項

   存在するということは外界と『相互作用すること』です。
   外界からエネルギーを受け取ることによって生命体は生きることができます。
   『コミュニケーション』も『一種の相互作用』といえるでしょう。

 

    存在する  = 相互作用する  = 影響を与え合う
    存在しない = 相互作用しない = 影響を及ぼさない


4.自由

   自由とは外界から影響を受けないことであると定義することができます。

 4-1.物質階層

   物理的に自由とは他の粒子と相互作用しないことです。

 

  粒子は他の粒子と相互作用することにより影響を受けます。
  粒子が外界から影響を受けないためには相互作用しないことが必要です。
  相互作用しないということはその粒子を実験的に観測できないことになります。
  観測できないということは存在しないことを意味します。

 

  粒子が存在すると必然的に相互作用してしまいます。
  相互作用するということは外界から影響を受けることを意味しています。
  それは『自由ではない』ということを意味しているのです。

 

    粒子が存在する ⇒ (必然的に)相互作用する
            ⇒  影響を受ける
            ⇒  自由ではない

 

  つまり、この世界に存在するということは『自由ではない』ということなのです。
  逆に、自由とは『この世界に存在しないこと』を意味しているともいえます。

 

 4-2.生命階層

   外部からエネルギーを取り入れることができないと生物は生命を維持できません。

  生物が自由になるということは外界から切り離されることを意味します。
  植物は光合成も呼吸もできなくなると生命を維持することができません。
  動物は水や食糧なしには生命を維持することができません。
  生物にとって自由とは『死』を意味します。

 

 4-3.人類階層

   人間は社会とつながりを絶たれると生きていくことが困難になります。

 

  人間も生物の一種ですから人間が自由になるということは生命を維持することができないことを意味します。
  人間が自由になるということは社会から切り離されて孤立することを意味します。
  現代社会では孤立した人間が生きていくことは困難です。

 

 4-4.各層に共通する事項

  自然界において完全な自由は存在しません。
  自然界に存在するものはすべて自然界と相互作用するからです。
  自然界に存在するものはすべて相互作用によりつながっているのです。

 

 4-5.限定された自由

  物質であれ生物であれ『完全な自由』というものは存在しません。
  限定された自由を『第三者に意思や行動を制限されないこと』と定義することができます。
  フランス人権宣言では自由を『他人を害しないすべてのことをなしうること』であると定義しています。
  他人を害しないという条件を付けられているので、自由は無条件に与えられるものではないのです。

 

   自由  =  外界から影響を受けないこと
       =  存在できない
       =  死(生物)

 


5.平等

 5-1.物質階層

 

   物質を構成する粒子は平等ではありません。

 

  陽子、中性子、電子といった物質を構成する粒子はフェルミ粒子と呼ばれます。
  フェルミ粒子は量子力学的に同じ状態をとることができません。
  1つの電子軌道には1つの電子のみが入ることができます。
  異なる電子軌道にいる電子は異なる性質を備えています。
  これは電子は平等ではなく異なる個性を備えていることを意味します。

 

  仮に、電子が平等であると仮定します。
  この場合には、1つの電子軌道に複数の電子が入ることができます。
  このとき、すべての電子は最もエネルギーの低い軌道(1s軌道)に入ります。
  その結果、すべての原子は水素またはヘリウムの化学特性をもちます。
  こうなると、生物の身体を構成する炭素や窒素に相当する原子が存在しません。

 

  実際には、電子などの粒子は別々の軌道でそれぞれの役割を果たしているのです。
  そのおかげで、元素の周期表にあるような多種多様な元素が存在するのです。
  粒子が平等でないからこそ、複雑な構造の物質、豊かな自然が誕生したのです。
  それぞれの粒子が違うからこそ、生物が存在できるのです。


 5-2.生命階層

 

   DNAが違うため生物は平等ではありません。

 

  有性生殖する生物は雄のDNAと雌のDNAをかけあわせて子供をつくります。
  2つのDNAから新しい組み合わせのDNAをもつ次世代を生み出すのです。
  より異なる生命を生み出そうとしているのです。
  新世代のDNAと旧世代のDNAとの差が大きくなって進化が起こります。
  このようにDNAが異なるため生物は平等ではありません。

 

 5-3.人類階層

 

   遺伝、非共有環境の影響が大きく、人類は平等ではありません。

 

  人類もDNAをもっています。
  個人の能力は、遺伝、非共有環境(学校等)の影響が大きいことが分かっています。
  逆に、共有環境(家庭環境)の影響は小さいことが分かっています。
  人間は、能力、寿命、美醜、経済力、運といった多くの要素をもっています。
  それらのすべてを等しくすることは不可能です。

 

 5-4.各層に共通する事項

  自然界は平等を支持しません。
  自然界は平等を目指していません。
  自然界においては、差があることに意味があるのです。
  粒子やDNAが個性をもっているからこそ、自然は豊かになり、生物は進化できるのです。

 

   自然界  ⇒  平等を支持しない
        ⇒  平等を目指していない
        ⇒  豊かな自然が生まれる
        ⇒  生物が進化できる


6.愛

   愛は『結びつき』であると定義することができます(仮定)。

 

 6-1.物質階層

  異なる粒子は互いにくっつくことができます。
  これを束縛状態といいます。
  中間子を交換することにより陽子は中性子とくっつきます。
  光子を交換することにより陽子は電子とくっつきます。
  特定の粒子を交換することにより異なる粒子同士は互いに引き合うのです。 

 

  これに対して、同じ種類の粒子はくっつくことができません。
  陽子は陽子とくっつくことができません。
  電子は電子とくっつくことができません。
  同じ種類の粒子同士は束縛状態をもたないのです。

 

  粒子の世界であっても、相手にないものを与え合うことでお互いに引かれ合うのです。

 

  湯川秀樹博士が、陽子と中性子との間でパイ中間子が交換されることにより陽子と中性子との間に力(強い相互作用)が働くという理論を提唱しました。
  その功績により、湯川秀樹博士は日本人で初めてノーベル賞を受賞しました。

 

 6-2.生命階層

  細胞とミトコンドリアは共生しています。
  生物が呼吸するとき、細胞がミトコンドリア有機物と酸素を与えて、ミトコンドリアが細胞にエネルギー源であるATPを与えます。
  ミトコンドリアがないと細胞はATPを得ることができません。
  細胞がないとミトコンドリア有機物や酸素を得ることができません。
  このようにお互いがお互いを必要とする関係を共生といいます。
  お互いがもっていないものを与え合う関係になっています。

 

  有性生殖する生物は雄のDNAと雌のDNAを混ぜ合わせて子供を産みます。
  雄だけでも雌だけでも子孫を残すことはできないのです。
  お互いがもっていないものを与え合う関係になっているのです。

 

  与え合うことは両者の関係を強く結びつけるのです。

 

 6-3.人類階層

  人は好きな人とコミュニケーションをとると幸せを司る神経伝達物質を分泌します。
  神経伝達物質には多数の種類があります。
  そして、誰とどんなコミュニケーションをとるかによって分泌される神経伝達物質が異なります。
  そのため、人は豊富な種類の幸福を感じることができるのです。

 

    セロトニン      安心感を得る
    オキシトシン     人とのつながりを感じる
    ドーパミン      成功体験により喜びを感じる
    フェニルエチルアミン 異性に好意をもつ

 

  コミュニケーションにより2人の人間が何かを与え合うことによってお互いが神経伝達物質を分泌します。

 

 6-4.各層に共通する事項

   与え合うことで粒子はお互いを強く結びつけます。
   与え合うことで生物は子孫を残します。
   与え合うことで人間同士は神経伝達物質を分泌し絆で結ばれます。
   自然界において与え合う関係は強い結びつきを生むのです。

 

    愛  =  結びつき


7.幸福

 

 7-1.物質階層

  物質世界に幸福という概念はありません。

 

 7-2.生命階層

  生物界に幸福という概念はありません。
  生物は生き残りつつ子孫を残します。
  生物は決して、幸福を追求するために生存しているわけではありません。

 

 7-3.人類階層

  人は好きな人とコミュニケーションをとると幸せを司る神経伝達物質を分泌します。
  幸福は『なる』ものではなく神経伝達物質の分泌により『感じる』ものなのです。
  神経伝達物質には多数の種類があります。
  そのため、人は豊富な種類の幸福を感じることができるのです。

 

   神経伝達物質が生存本能、生殖本能を強化するためにあるのであれば、
   幸福とは、人間が生命活動を全うするための報酬であるといえるかもしれません。


8.寿命

 8-1.物質階層

  原子核には寿命があるものがあります。
  例えば、コバルト60はニッケル60に崩壊します。
  コバルト60の半減期は5.27年です。
  5.27年経過すると、コバルト60の半分はニッケル60に変化します。

 

 8-2.生物階層

  かつて生物は無性生殖により増えました。
  無性生殖は主に細胞分裂です。
  細胞分裂の場合には親のDNAと子のDNAがほとんど同じです。
  そのため、アメーバみたいに単純な構造の生物しか生まれませんでした。
  その代わりに、寿命が無限の生物が存在します。

 

  雄のDNAと雌のDNAを混ぜ合わせる有性生殖を行う生物が生まれました。
  有性生殖の場合には親のDNAと子のDNAはある程度異なっています。
  そのため、植物、動物などの複雑な構造の生物が誕生しました。

 

  DNAは複雑化し、その代わりにDNAはテロメアをもつようになります。
  テロメア細胞分裂の回数を制限します。
  細胞分裂の回数が限られるため寿命は有限になりました。

 

 8-3.人類階層

  生物が有性生殖により繁殖し、気が遠くなるような世代交代を経た結果、生物は人類に進化しました。 
  進化の過程でDNAが複雑化し、テロメアをもつようになって寿命は有限になりました。
  先祖にあたる生物が寿命を手放したからこそ、生物は人類に進化できたのです。

 

 8-4.各層に共通する事項

   自然界に存在する物質や生命は寿命をもっています。


9.失われる運命にある命に価値があるのでしょうか?

  生物にできることは(1)生きること(2)子孫を残すこと、この2つだけです。
  生物が存在するということは『外界と相互作用する』ということです。
  人類は社会とコミュニケーションすることにより生きています。
  人類の寿命は限られています。
  個体はいずれ死ぬ運命にあるのです。

  これらのことから、本当に価値があるのは『命自体』ではなく、『生きている時間』なのだといえます。
  もっといえば『生きている間に何をしたか』ということに意義があるのです。
  そして、『次の世代にどんな影響を残したか』が重要になってきます。


10.人はどう生きればいいのでしょうか?

  相手に与える向きをプラス、相手から与えられる向きをマイナスと定義します。
  定義は、電流の向きと同じでどちらでも構いません。

 

  (1)相手に与えるのみの場合
      生物は外界からエネルギーを与えられないと生きていくことができません。

 

  (2)相手から奪うのみの場合
      相手から何もかも奪えば相手は死んでしまいます。
      バトルロイヤルにより人類は滅びる可能性が高いといえます。

 

  (3)相手から受け取りつつ相手に与える場合
      外界からエネルギーを受け取りつつ相手に何かを与えることができます。

 

   (3)の場合のみ、人類は与え合う環境の中で生きていくことができます。

  愛の項目でも説明したように、与え合う関係を築くことにより人間同士は強い関係を築くことができます。

 

  映画や音楽を制作することが得意な人は誰かを感動させればいいのです。
  優しい人は周りの誰かに優しく接すればいいのです。
  そして誰かに与えるための何かは人それぞれ違っていてよいのです。
  DNAの多様性が、その人が与える何かと結びついているのですから。
  『平等ではない』からこそ、人それぞれ違うものを誰かに与えることができるのです。

 

   相手にプラスの影響をもたらすように生きましょう!


11.幸福は得られるのか?

  生物は生きることと子孫を残すことを繰り返すことによって進化してきました。
  生物は幸福になるために生まれてきたわけではありません。

 

  人間は社会を形成します。
  プラスの影響を与える人達が集まって社会を形成することができます。
  人にプラスの影響を与えることでオキシトシンが分泌されます。
  人からプラスの影響を与えられることでセロトニンが分泌されます。

 

  誰かに何かを与えることができる人達が集まることで与える喜びと与えられる喜びを得られるのです。
  神経伝達物質は生物が生存し子孫を残すために必要な快感を与えるために存在する報酬だと考えられます。

 

  生物は幸福になるために生まれてきたわけではありませんが、人類が形成する社会において人間は幸福に到達することができるのです。
  神経伝達物質の種類が豊富であることは人間が感じることができる幸福感が多種多様であることを示しています。


12.善悪とは?

  物質の世界に善悪はありません。
  生物の世界にも善悪はありません。強いて挙げれば絶滅が悪だといえます。
  善悪とは人間が勝手に振り分けた価値観の一種にすぎません。
  価値観は宗教、文化、といった背景に影響されるため、国ごとに違っています。
  ある程度の共通的な感覚をコモンセンスといいます。

 

  しかし、コモンセンスには科学的な根拠はありません。
  それでも、善悪を再度定義することができます。
  他人にプラスの影響を与えることを『善』、他人にマイナスの影響を与えることを『悪』と定義することができるのです。


13.未来は大事?

  未来は大事です。
  先祖がDNAを残してくれたからこそ私達は存続できているのです。
  ここで未来には2種類あります。
  『個人の未来』は老いて死ぬことです。
  『共同体の未来』は子供達が担っています。
  それでは高齢者と子供のどちらがより大事なのでしょうか?
  それは個人と共同体のどちらがより大事なのかという問題と置き換えることができます。
  個体としての人間は必ず死にます。
  ですが、共同体は半永久的に存続することができます。
  個人より共同体を優先すべきなのです。
  高齢者より子供を優先すべきなのです。
  先祖にあたる人達が、高齢者を生きながらえさせるために子供の命を犠牲にしてきたとしたら、(今の高齢者を含む)私達は生まれてくることができなかったのです。


14.人は社会をつくり自由を代償に愛を得た

  人間は一人では生きていけません。
  文明が高度になるほどその文明を支えるのにいろいろな役割を担う人間が必要になります。
  社会を形成することは自由を失うことなのです。
  その代わりに、与え合う関係が築かれるのです。
  物質も、生命も、人類も、与え合う関係が互いの結びつきを強くするのです。


15.すべてはつながっている

  ミクロな世界では強い相互作用弱い相互作用が働いています。
  物質の世界では電磁相互作用が原子核や電子に働き、物質は結合します。
  マクロな世界では重力が天体を引き合わせています。

    すべてはつながっている。

  生物は親から子へ、子から孫へDNAを受け継いでいます。
  過去から未来へ世代交代によってつながっているのです。

    すべてはつながっている。


16.愛という名のつながり

  愛という名のつながりは、粒子と粒子を結合させ、雄と雌に子孫を残させ、人と人を巡り合わせます。
  この世界に存在する以上、このつながりから逃れることはできません。自由ではないのです。その代わりに、私達は孤独ではないのです。
  この世界においては、物質も生命も平等ではなくそれぞれの個性をもっています。だからこそ、個性的な原子は豊かな自然を育み、多種多様な生物が誕生したのです。
  私達がこうして生きていること、それは自然や社会から恩恵を受けていることの証なのです。